青年期におけるスポーツ貧血の実態

「健康のために運動を始めたのに、なんだか体調が良くない日が増えた気がする‥」
「部活の先生に、このところ記録が良くないと指摘されてしまった‥」
「最近、身体がだるくて、部活後の授業に集中できません‥」

貧血外来では、このような相談を受けることがとても多いです。「私も同じようなことで悩んでいた‥」という方もいらっしゃるのではないでしょうか?

運動することによって引き起こされる問題の一つに「貧血」があります。特に、スポーツをすることによって引き起こされる貧血は「スポーツ貧血」と呼ばれており、耳にしたことがあるかもしれません。

例えば、ハンドボールやバレーボール、サッカー、柔道のプロ女性選手を対象とした研究によると、鉄欠乏性貧血の有病率は2%であり、FIFA女子ワールドカップ出場したプロサッカー選手を対象とした調査では、鉄欠乏性貧血の有病率は29%でした。またトップレベルのバスケットボール選手を対象とした調査では、鉄欠乏性貧血の有病率は男性が3%、女性が14%であり、冬季オリンピックに出場するノルディックスキーやアルペンスキー、フィギュアスケート、スピードスケート、アイスホッケー選手を対象とした調査によると、鉄欠乏性貧血の有病率は男性が7%、女性が8%であったことが報告されています。

貧血は身体能力や競技パフォーマンスに影響を及ぼす可能性があることが指摘されています。そのため、貧血はスポーツ選手にとって性別に関係なく重要な健康問題であり、競技成績にも関わる大きな問題なのです。

スポーツが貧血を引き起こす要因の一つとして、発汗による鉄の喪失が指摘されています。汗には、私たちの生命活動に重要で欠かせない、鉄やナトリウム、カリウムやマグネシウムなど多くのミネラルが含まれています。汗はエクリン腺と呼ばれる汗腺から出るのですが、エクリン腺は大切なミネラルをできるだけ失わないようにするために調整する役割を果たしています。ところが、激しい運動により大量の汗をかいてしまうと、エクリン腺に備わっている汗の再吸収機構は追いつくことができず、鉄をはじめとするミネラルが体外へと失われてしまうのです。

汗をかくことは、私たちの身体にとって欠かせない生理現象の一つです。体温の上昇に伴い、汗が出てくるのは、汗をかくことで体内の熱を逃がして体温を下げようとするからです。夏に運動をする際は、暑さによる発汗も加わります。鉄の喪失という観点からは、夏は特に注意が必要な時期だと言えるでしょう。

他にも、鉄摂取不足、血管内溶血、消化管での微小な出血など様々な要因がスポーツを引き起こす要因として挙げられています。しかしながら、スポーツ貧血の実態が全て解明されているわけではありません。スポーツ貧血に関する先行研究の多くは、症例報告や小規模研究であり、プロのアスリートや、ジュニアオリンピック選手などを対象としたものが大半を占めています。特に学校やコミュニティークラブでスポーツを行っている若年世代における鉄欠乏・貧血の特徴はほとんど知られていません。

そこで、当院の貧血外来を受診した「運動部に所属する青年期の一般アスリートの貧血の実態」を知る必要性があると思い、当院は医療ガバナンス研究所の研究チームと共同調査¹を実施することにしました。

まず、学校の運動部の所属している貧血外来を受診した13歳から22歳の男女485人の血液検査や診療記録のデータを収集しました。初診時に鉄剤をすでに内服していた55人を除外し、初診時に無治療だった430人を対象とし解析したところ、なんと男性の9.0%、女性の23.1%で貧血を認めていたことがわかりました。また、多変量解析の結果、男女ともに、「鉄欠乏」と「過度な運動」が貧血の原因であることが示唆されたのです。

今回の調査によって、運動部に所蔵する男女は、性別問わず「貧血」が重要な問題であることがわかりました。そして解析の結果、貧血の原因は「鉄欠乏」だけでなく、「過度な運動」も貧血を引き起こす重要な要因であることが考えられました。つまり、鉄の補充に加えて、トレーニング量にも注意する必要がある可能性が示唆されたのです。

今回の調査は、一般の中高生や大学生を対象とした調査です。今後さらなる大規模な調査が必要ではありますが、広く運動をしている人にも当てはまる可能性があると考えています。

スポーツをする目的は、健康維持のため、競技成績を残すため、スポーツを楽しむため、など人によって様々ではありますが、スポーツをすることで身体を壊してしまっては元も子もありません。鉄を日々摂取することと体を休養させる時間を確保することが、スポーツをより楽しみ、スポーツをより続けていくことができる秘訣の一つになるのだと思います。

  1. https://peerj.com/articles/13004/

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